今回は前回の被害者参加制度に引き続き,併せて導入された損害賠償命令制度についてご紹介します。この2つの制度は併用することが可能であり,私が過去に担当した事件でも併用しています。
損害賠償命令制度は,刑事裁判の成果を利用して被害者やご遺族の犯人に対する損害賠償請求に係る紛争を簡易,迅速に解決する目的で創設されました。従来は,被害者が加害者に対して損害賠償を請求する場合,最終的には民事裁判を起こし,時間,労力,費用を費やす必要がありました。損害賠償命令制度では,被害者が事前に裁判所に対して申立てを行っておけば,被告人に対して有罪の言渡しがなされると,直ちに第1回の審理期日が開かれ,通常4回以内の審理期日により迅速に損害賠償を命じる決定が出されます。刑事裁判を担当した裁判官が刑事裁判に引き続いて判断を下すので効率的といえます。
損害賠償命令制度の対象犯罪は殺人,傷害,強盗致死傷,強制わいせつ,強姦,逮捕,監禁,略取誘拐,人身売買などであり,被害者参加制度の対象犯罪と似ていますが,業務上過失致死傷,自動車運転過失致死傷を含まない点などで若干異なります。過失相殺など複雑な判断が要求され短期間の審理で結論を出すことが適当でないことなどが理由とされています。また,複雑な事件の場合には対象犯罪であっても民事訴訟へ移行させられる場合もあります。損害賠償命令の決定に対して当事者から異議が出た場合も民事訴訟へ移行となります。
損害賠償命令の決定は,確定判決と同じように強制執行の根拠となることから,加害者に財産がある限り迅速に回収することが期待できます。また,被害弁償を済ませたことを控訴審で減刑事由として主張するため,第1審の量刑に不服がある加害者からは自主的な支払いも期待できます。もっとも,金銭では癒すことのできない傷を負った被害者にとって,お金を受け取った結果,加害者の量刑が軽くなるかもしれないことには抵抗があるかもしれません。しかし,多くの刑事事件では金銭的な被害弁償すらなされておらず,被害回復のための損害賠償命令制度の存在意義は今後ますます大きくなるでしょう。
前回ご紹介いたしました被害者参加制度と同様ですが,犯人と対峙する損害賠償命令制度も心に傷を抱える被害者にとっては相当の重荷であり,専門家の助力なくしては難しい手続です。
損害賠償命令制度をお考えの場合には当事務所までご相談ください。
執筆者:山下江法律事務所