「架空請求」は昔からよく話題になるものです。その悪質さと防止、対策について解説します。
架空請求とは何か
「架空請求」という言葉は、広く知れ渡っているものです。詐欺の代表例でもあり、さまざまなところで警鐘が鳴らされています。ここでは、「架空請求とは何か」から丁寧に解説していきます。
架空請求とは、簡単に言えば、「何の覚えもない個人に対して、まるで契約を締結したかのように装い、メールや督促状を送りつけて支払いを要求すること」をいいます。インターネットが発達したことによって多様化してきた詐欺といわれることもありますが、請求にはメールだけではなく、ハガキなども利用されます。
架空請求の手口は、実にさまざまです。たとえば以下のものが挙げられます。
- 有料の成人向け動画サイトで、「年齢を確認する」というボタンを押したら請求画面に飛ばされた
- スマートフォンの有料コンテンツを利用したが料金が納められていないとして、支払うようにSMSが届いた
- 「裁判の取り下げの最終日までに相談がなければ、裁判をして差し押さえを行う」として、桐花紋の入った封書が届いた
これらが悪質であるのは、
- 成人向け動画サイトなど、他者に相談するのに精神的な抵抗感のあるコンテンツをベースとしていることも多い
- 請求メールに個体識別番号やIPアドレスなどが載せられており、個人を特定しているように見えることが多い
- 「重要」「訴状」などのように、緊急性をあおる文言が書かれていることが多い
などのような点です。また、「このような訴えを下げてほしければ、こちらに連絡をすること」「〇時までに連絡をしてくれれば、話し合いができる」「不明点や不満点があれば問い合わせを」などのようにして、あたかも「相談できるかもしれない窓口」を用意していることもよくあります。ただ、このような窓口は当然正規のものではありません。最終的にはお金を引き出すことを目的としたものですから、ここに連絡したとしても、「誤解が解けて支払わなくてよくなった」となることはありません。むしろ、「だましやすいカモ」と思われて、さらなる詐欺行為のターゲットとなる可能性があります。
架空請求の防止策
では、このような架空請求による被害を防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。
・連絡をしない
まず、もっとも有効な手段が、「連絡をしない」ということです。連絡をすると、相手があなたの電話番号を把握してしまいます。メールによる架空請求は、記号、数字、アルファベットなどをランダムに選択して送っていることが多いのですが、返信することで「このメールアドレスは生きていること」を相手に教えてしまいます。加えて「慌てふためいて加害者側にコンタクトを取ってくる人間=だましやすい」と思われてしまうのです。無視をするのが鉄則です。
・画面を閉じる
サイトにアクセスをしたときに、ポップアップなどで請求画面が出てきた場合は、その時点で閉じるようにします。閉じたサイトには再度アクセスしないようにしましょう。
・支払わない
詳しくは後述しますが、架空請求を受けてお金を支払ってしまった場合、それを取り戻すのは極めて難しくなります。焦らせる文言が出てきても無視し、決して振り込まないようにしてください。
・相手にメールアドレスなどが知られている場合は、変更するのが望ましい
「相手からのメールに返信をしてしまい、メールアドレスが生きていることがバレた」「個人情報を相手に握られてしまった」という場合は、それらを可能な限り、また迅速に、変更するとよいでしょう。これによって二次被害(メールアドレスを使って登録していたほかのサービスに不正アクセスされるなど)が起きるリスクを下げることができます。
・不安になったら相談をする
「無視しているけれど不安だ」「本当に、このままでいいのかわからない」「相手から執拗(しつよう)に連絡が来て困っている」という場合は、警察や国民生活センターに相談しましょう。「ひとりで悩み、抱え込んでしまうこと」は、架空請求やほかの詐欺において、非常に大きなリスクとなります。
身近な家族や友人に相談するだけでもアドバイスを受けられて冷静になれることもありますが、専門家である警察や国民生活センターに相談したほうが、より的確な対応と安心感を得られるでしょう。もちろん、この段階で弁護士に相談してもかまいません。警察や国民生活センター、弁護士は、あらゆる事態の相談に慣れています。相手はプロですから、成人向けサイトなどのように「周りの人には相談しにくいこと」でも相談しやすいでしょう。市町村によっては、「週に1回、予約をしてくれれば無料で弁護士に相談ができる」というサービスを設けているところもあります。
架空請求にひっかかって払い込んでしまったら
予防策を講じていたにも関わらずお金を払い込んでしまったり、執拗な督促に負けてお金を支払ってしまったりした場合はどうすればよいのでしょうか。
この場合は、まず警察や弁護士に連絡をします。警察や被害者からの届け出があれば、加害者の口座を凍結させることもできるようになります。口座を凍結させることができ、かつ加害者の口座に十分な預貯金残高があれば、一定期間経過ののち、被害額に応じた割合でお金が返ってくる可能性もあります。
ただ、この方法の場合、預貯金残高がなければ対応が難しいといえます。相手が法人だった場合、架空請求に加担していない取締役などに対して損害賠償請求を行うなどの方法をとることもできます。ただ、それでも一度支払ってしまったお金をそっくりそのまま回収できる可能性は極めて低いのが現状です。たとえ支払い後に「詐欺であった」とわかったとしても、支払い済みのお金を回収することは 容易ではありません。それに、回収するためのコストも発生します。架空請求に対しては、「払わない」が最善手となります。
架空請求の被害は、今後もゼロになることはないでしょう。架空請求の手口は日々多様化・巧妙化しているからです。しかし「架空請求というものがあること」「誰もが被害者になり得るものであること」「対策を知っておくこと」で、リスクを少なくすることはできます。