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その場から逃げおおせても……痴漢の後日逮捕について

山下江法律事務所

 「痴漢」は許されざる犯罪です。「痴漢された」ということがトラウマになり、電車などを使うことができなくなる人もいます。身勝手な欲情を果たすためだけに行われる痴漢は、決して許されるものではありません。
 ただ、「どうせ捕まらないだろう」「減るものでもないし」「相手が挑発してきたんだ」「もし捕まっても逃げればよい」と考える人間もいるからか、痴漢事件が0になることはありません。
 今回はこの「痴漢」を中心に、「痴漢と逮捕」「冤罪のときはどうするか」について解説していきます。

現行犯逮捕はだれであっても可能

 「痴漢をしても、周りに警察官などがいない限りは捕まらない」「逃げればよい」と考える人もいるかもしれません。
 しかし、痴漢は現行犯であればだれであっても逮捕することができます。

 これは「私人逮捕(しじんたいほ)」あるいは「常人逮捕(じょうじんたいほ)」と呼ばれるものです。

 一般的に、逮捕は逮捕状を持っていないとできません。また、これを行使できるのは警察官や検察官などの特別な職業に就いている人だけです。緊急逮捕の場合でも、要件を満たさなければ行うことはできません。

 しかし痴漢や万引きなどの現行犯や準現行犯の場合は、逮捕権を持たない人(一般の人)であっても逮捕することができます。これを「私人逮捕(常人逮捕)」と呼びます。緊急性があると認められるため、逮捕状がなくても、また逮捕権を持っている職業の人でなくても捕まえることができます。

 ただ、この「私人逮捕」ができるのはあくまで現行犯のときだけです。また相手の住所や氏名が分かっていないという場合に限られます。たとえば、「知人で名前や住所がわかっている」などの場合は、同じ「痴漢」であっても私人逮捕はできません。加えて、相手が逃亡する恐れがあると判断できる場合以外は逮捕ができません。なお、社会通念上止むを得ないと判断される以上の「取り押さえ」があった場合は、取り押さえた側が罪に問われることもあります。

 このような注意点はあるものの、「自分が、あるいは自分の大切な人が痴漢にあったり、また痴漢被害にあっている人を見かけたりした場合は、逮捕権がなくても逮捕ができる」ということは押さえておくべきでしょう。また加害者側の立場に立っていえば、「たとえ周りに警察官などがいなくても、逮捕される可能性は十分にある」ということになります。

痴漢の罪で後日逮捕されることも……

 私人逮捕というかたちで、痴漢を働いた当日に捕まることもあります。
 ただ「現行犯で逮捕されなかったから、もう大丈夫」と考えるのもまた早計です。

 現行犯で逮捕されなかった場合でも、後日逮捕される可能性は十分にあるからです。

 たとえば被害にあった人が、「当日は怖くて相手を捕まえることができなかったけれど、解放された後に警察に被害届を出した」などのようなケースでは後日逮捕される可能性が高まります。

 ・防犯カメラの映像で、痴漢を働いているところが鮮明に映っていた
 ・被害者の衣服にDNAがついており、また被害者が抵抗したときに付着したDNAが一致した
 ・電車での痴漢行為であり、その区間を行き来している定期券の履歴などが確認された

 このような「証拠」が見つかった場合、後日逮捕状を持った警察官が家などを訪れることになります。
 このため、「当日捕まらなかったから大丈夫」「電車を降りてしまえば、自分がだれだったかなんて被害者にはわからない」「痴漢をしたときに声を上げなかったのだから、自分は捕まらない」と考えるのは早計ですし、間違いです。

 痴漢の後日逮捕は、「痴漢した直後」に行われる可能性は高くないとされています。「逮捕はもうないだろう」と安心した6か月後~2年後くらいに逮捕されやすい傾向にあります。
 「あのころはどうかしていた、もう痴漢はしていない」「痴漢の癖も収まったから結婚した」などのような人でも、ある日職場や自宅に警察官が来て逮捕される……ということもありえるのです。
 また、公開捜査というかたちで捜査されることもあります。

 このように、「痴漢行為による逮捕」はいつ行われるかわからないものです。
 決して「痴漢をした日に捕まらなかったから、もう大丈夫」といえるものではないのです。

冤罪の場合の戦い方

 痴漢で捕まった場合、

 1.迷惑防止条例違反
 2.強制わいせつ罪

のいずれかが成立します。

 迷惑防止条例は、「公共の場所や乗り物の中で、衣服の上からあるいは直接、人の体に触れたとき」に問われる罪です。これに問われると、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。

 強制わいせつ罪の場合はさらに重く、「6か月以上で10年以下の懲役」が科せられます。罰金刑がないので、懲役刑に科せられる可能性が高くなります。強制わいせつ罪は、暴行や脅迫を用いて、あるいは被害者が抵抗できない状況に置いて行われるものです。また、下着の中に手を入れた場合は強制わいせつ罪に問われる可能性が高くなります。

 このように、痴漢の罪は非常に重いものです。また社会的な信用も失墜します。

 ただこれが、まったくの冤罪だった場合はどうでしょうか。

 被害者が勘違いしていた、あるいは被害者が示談の金銭目的で痴漢被害をでっちあげたというケースが実際に存在します。

 まったく見に覚えのない痴漢容疑を掛けられた場合は、以下のように対処するのが望ましいとされています。

 1.まずははっきりと、駅員に対して「やっていない」と否定する
 2.携帯電話で家族に連絡をし、管轄の警察署に来てもらう
 3.2の段階で釈放されなければ、弁護士に連絡をする

 しばしば、「逃げるのが最善手」とされることがあります。しかし逃げた場合は「痴漢をしたから逃げたのだ」と思われ、心証も最悪になります。また逃げ切れなかった場合の被害は甚大です。仮にうまく逃げたとしても、上記で挙げた「後日逮捕」におびえ続けることになります。このため逃げることが良いことだ、とは言い切れません。

 大切なのは「やっていない」と否定しその意見を変えないこと、弁護士などの専門家に速やかに助けを要請することです。それによって、やってもいない痴漢で罪に問われるリスクを大幅に軽減することができるようになります。

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