「プライバシーが守られること」は、人が生きていくうえで非常に重要なことだといえます。そのため、このプライバシーの侵害に対して対抗するさまざまな方法が打ち出されています。
今回はこれについてみていきましょう。
プライバシーの侵害を直接罰する刑事罰はない?
私たちは、生きているうえでさまざまな「自分(あるいは自分の近しい人)しか知らない情報」を持つことになります。このような情報は基本的には他人に知られたくないものですし、また人に知られたら困る情報であることも多いといえます。
ただそのなかには、ほかの人に知られても一向に差し支えのないものがあります。たとえば「Aさんは、カフェオレを買ったことがある」などはごく私的な情報ではあるものの、ほかの人に知られても構わない情報であることが多いといえます。
「プライバシー」とは「他人に知られたくない私的な情報」と解釈されますから、上記のような情報は、たとえ公開されても「プライバシーを侵害した」とは認定されない可能性が高いといえます。
ただし、「あの人は友人から借金をしている」「あの人は過去に自己破産した」「性病に罹っている」「昔犯罪をして、刑務所に入っていた」などの情報はプライバシーにあたると考えるわけです。
何がプライバシーの侵害であり、何がプライバシーの侵害でないかを考える場合は、下記のような条件を満たすかどうかを見ていくと分かりやすいでしょう。
・一般的に考えて、人に公開しない内容であること
・また自分自身が公開していないこと
・それを公開したとき、「その人のことだ」とわかるあるいは「その人のことだろう」と思われる可能性があること
であった場合は、公開した人間が「プライバシーを侵害した」と認定されることが多いといえます。
プライバシーにかかわる権利を、一般的に「プライバシー権」と呼びます。プライバシー権自体は明確な定義を持つものではありませんが、基本的人権のひとつと解釈されるのが一般的です。そのため、プライバシー権の定義はあいまいではあるものの、プライバシー権を侵したとして罰が下った例はいくつもあります。
たとえば、AとBが一緒に撮影した写真を、Cが自分自身のSNSに無断で転載した事件では、プライバシー権の侵害と著作権の侵害があったとして、合計で47万円近くの支払いが命じられました。
また芸能人などの著名人の場合は一般人に比べてプライバシー権が認められにくい傾向にあるものの、著名人の家庭問題を報道した週刊誌がプライバシー侵害で損害賠償を請求されたケースもあります。なおこのケースでは、「損害賠償請求を認容する」という判決が出ました。
プライバシー侵害と深い関わりのあるもの~ストーカー規制法と刑事罰
プライバシー侵害と深い関わりのあるものに「ストーカー」が挙げられます。
ストーカーとは、「恋愛感情やそれ以外の感情が満たされないことから、特定の人物に対してつきまとい等を行うこと」をいいます。この「つきまとい」には数多くの種類がありますが、盗聴や覗き行為などによってプライバシー権が侵されることがあります。
もう1つ恐ろしいのは、「プライバシー権が侵された結果として、ストーカーを呼び込む可能性がある」という点です。自分の意図しないところで自分の個人情報が流されると、「この可愛い女性と付き合いたい」「女性の住所がわかったから、交際を申し込む」などのようにストーカー行為を誘発してしまう可能性があるのです。場合によってはさらなる凶悪な犯罪をも呼び込みかねません。
また、そのストーカーが昔の恋人などであった場合、交際中に性的な動画や画像が撮られているというケースもあります。「振られた」「冷たくなった」「自分はまだ付き合っているつもりなのに、会ってくれない」などの理由で、これをリベンジポルノとしてばらまく人間もいます。これらは重大なプライバシー侵害であると同時に、被害者の人生そのものを破壊してしまう行為でもあります。
ストーカー行為やリベンジポルノなどを伴う殺人事件が起きたこともあり、現在はこれらが厳しく罰されています。
たとえばストーカー行為の場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。禁止命令が出された後でも続けた場合は、2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科せられます。
なおリベンジポルノの場合は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
プライバシーを守るためにできること
プライバシー権が侵されることで、名誉が毀損されたりほかの犯罪を呼び込んでしまったりしてしまう可能性があります。
もちろん悪いのは加害者ですし、加害者はしっかりと罰されるべきです。しかし一度被害者になってしまうと、その傷が長く傷み続けることもあるでしょう。そのため、まずは「プライバシーを守るためにできる対策」を打つことが重要です。
1.個人情報を流さない
SNSなどに個人情報を流さないようにします。特に、位置情報が記録される媒体での撮影―投稿は危険です。また、だれにでも見られる状態にしておくとさらに危険性があがります。
2.性的な画像を撮らせない
性にまつわる画像は、特にデリケートなものです。交際している相手にも、性的な画像は撮らせないようにしましょう。
3.個人情報を登録するサイトの安全性をよく確かめる
インターネットを使って買い物をしたり、メールを受け取ったりする場合は、個人情報を登録するサイトが安全なものかどうかをよく確かめましょう。
また「プライバシーが侵害された」「つきまといを受けている」などのような状況に陥ったのならば、できるだけ速やかに専門機関に相談するようにしてください。そうすることで冷静に物事にあたることができるようになりますし、法に基づいた解決策を模索していくこともできるようになります。
警察の窓口や弁護士事務所の扉は、いつでも困っている人のために開かれています。